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「しっかしすごいね、大手町って」
ガラス張りのエレベーターに乗りこむと、先ほどまで歩いていたオフィス街が少しずつ足元に広がっていく。
「ザ、オフィス街って感じ?」
志保にそう聞かれた私は、小さく頷きながら右へ左へ視線を動かした。
「うん。これぞまさにオフィス街!って感じ」
目の前に見える高層ビル群を眺めていると、なんだか憧れていた場所にたどり着けたような気がして胸が高鳴った。
就職などしたことがない私にとっては、オフィス街なんてものはずっと縁のない場所だった。
テレビで見るドラマなんかでは目にすることはあったけれど、都内に住んでいるとはいえ、全く用などないこんなオフィス街には足を運ぶようなこともなかったから。
だからこそ、なんだか胸が踊るような気分だったのかもしれない。
立ち並ぶ高層ビルや、急ぎ足で行き交うたくさんの人たち。それから、久しぶりにスーツに身を包んでいる自分。
そのどれもが、ただただ新鮮だったのだ。
そして……
エレベーターが28階で止まり、そこから一歩踏み出した時。
私はずっと閉じ込められていた世界から抜け出せたような、不思議な清々しさを感じた。
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