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窮屈な居場所
「今さら働きに出るだなんて、一体どういうつもりなのかしら?嫌がらせだとしか思えないわね」
キーンと響く声と同時に、テーブルの上でガシャンと音が鳴る。
朝食の食器を片付けながら音のした方へ視線を向けると、真っ白なダイニングテーブル上に溢れたコーヒーの跡がハッキリと見えた。
慌ててキッチンから飛び出し、手にしていた布巾でその茶色い液体を直ぐさま拭きとる。
「ねぇ、公(こう)ちゃんもそう思うでしょう?美春(みはる)さんがわざわざパートするだなんて…ご近所さんに知れたら何を言われることか」
鼻息荒く話す義母の声に、返す言葉も見つからない。
「美春さんは自分の立場をよくわかってないのかしら?誰もが羨むような高級住宅街で何不自由ない生活をさせてもらってるのに…。一体、この家に何の不満があってそんなことをするのかしら」
嫌味としか取りようがない言葉を吐きながら、義母は先ほどよりもさらに音を立てるようにコーヒーカップをテーブルに叩きつけた。
拭いたばかりのテーブルが、さっきよりも無惨に汚れている。
だけどこういうことは初めてではないため、私は黙ってそれを拭きとった。
正直、モノに当たるのはやめてほしい。
でも、そう思ってはいても口には出さない。いや、出せない。
言えば何倍…いや、何十倍にもなって返ってくるのがわかっているからだ。
それに、もし何か言ったとしてこれ以上機嫌を損ねたら…せっかくパートに出る話が白紙になってしまう。
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