自分のチョコを渡された話

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自分のチョコを渡された話

[バレンタインの帰り道。「忘れ物だよ」と声をかけられ振り向くと、幼馴染がチョコを差し出していて――。]  僕は立ち止まり、駆け寄ってくる“彼”からそのきれいな包装の小箱を、押し付けられるようにして受け取った。調理部の仲間で、男子部員は僕と彼の二人だけだ。 「自分で作ったチョコを忘れるなんて、間抜けだね」 「……女子部員からもらいすぎて、つい」  調理部の活動で、今日はチョコレートを作った。といっても既成製品のチョコレートを湯煎で溶かして、固め直し、そこから様々にデコレーションするだけなんだが。 「またまた。このチョコ、思いを込めて作ったってこと、僕には分かっているよ」 「適当なことを。女子にしか興味ないくせに」 「いやいや。折角作ったんだから、渡したらどうよ、先輩に」  やはり、こいつは知っているらしい。 「そうは言っても勇気が、な」 「バレンタインて日本では最初、女から男にチョコレートをプレゼントすると同時に告白するものとして広まったイベントだけど、元々、そんな性別は関係ないんだって」 「男からでもOKってか」 「そういうこと。そもそも、相手も君の気持ち、察してくれてるんでしょ?」 「多分。ただ、察してくれているのと、受け入れるかどうかは別問題――」 「んなもん、踏み出してみなきゃ分かんないよ」  幼馴染みは僕の身体の向きを強引に変えた。百八十度反対向き、つまり学校への道。 「押すなよ。告白したくても、壁が他にもあるんだが」 「そういうのも含めて、やってみなきゃ」 「……面白がってるんじゃないよな?」  肩越しに振り返ると、押してくる幼馴染みと目が合う。 「もちろん。真剣に応援している」 「じゃ、着いてきてくれるか。途中まで」 「お安いご用」  そうして僕は、学校への道を引き返し始めた。体育教官室にいるであろう、花輪大吾(はなわだいご)先生に逢うために。  終わり
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