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手紙
公園のベンチに座り、俺は手紙の中身を取り出した。そこには『藤 結人君へ』と俺の名前があった。
「俺宛……」
少し驚きながら、ゆっくり読み進めた。
『藤 結人君へ
十歳のお誕生日おめでとう。ハーフ成人式は楽しかったですか?
お母さんは、重い病気があって、中々会えてないのかもしれませんね。それか、天国にいるかも。どちらにしても、寂しい思いをさせてごめんね。
結人は、どんな大人になりたいですか?
結人には、これからの時間がたくさんあるのだから、弱気になってはいけませんよ。やりたいことをするために、やりたくないのもたまには頑張って。毎日を過ごしていってくださいね。
結人のこれからの時間に、いいことが少しでも多くありますよう祈ってます。
PS 結人が産まれた時、あなたみたいだって思った花がありました。その時見たのはピンク色だったけど、男の子は青色の方がいいかと思って、球根を入れました。よかったら、育ててみてくださいね。
藤 奏子』
俺は何度かそれを読んで、いつから流れていたのかわからない涙を腕で拭った。
あのお姉さんの事だ。買い物ついでにこれを出そうとした時、事故にあって手紙を入れて死んだのだろう。
「……俺の母さんだって、最初に教えろよ……奏子姉ちゃん」
俺が俯くと、お姉さんの声がすぐ近くでした。
「ごめんね……あなたとお話しできるのがとても楽しくて、つい言い忘れちゃったのよ」
かなり透けているが、お姉さんの腕が見えた。俺を背中から抱きしめているのだろう。お姉さんは続けた。
「母さんは、昔からうっかり者なのよ。だから結人は、しっかり者になったのね」
「……そんなんじゃ、ねぇし」
「ううん、しっかり者よ。私の自慢だわ……だから、そのままでいてね」
「わかったよ……母さん」
「ありがとう」
お姉さんはきらりと光って空へ昇っていった。俺はしばらく空を見上げ、笑った。
うっかりしてて明るくて気が強い。そんな母さんががっかりしないよう、弱気になんてなってられねぇ。そう思いながら俺は立ち上がり、家へ向かった。
俺の部屋に着いた時、ふと思い出し、空に叫んだ。
「ゲーム、勝たせてくれんじゃなかったのかよ、あんのくそメガネがぁ」
その時見えた細い月が笑っているようだったから、若いおじさんは許してやることにして、夕飯の為食卓へ向かった。
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