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しかし復讐に介入するのが高円寺院家の人間ではなく、嶺歌ただ一人なら話は別である。
嶺歌が高円寺院家と親しいという事実を知る者はごく僅かであり、知られたとしても彼女自身が行うのであれば、一族の名に傷がつく事はないからだ。
この抜け道にすぐ気付く事ができなかったのは彼女の言動に動揺し、失念していたからだった。
――――――『あれなの立場に迷惑はかけないから安心して!』
先程の嶺歌の言葉を思い出す。嶺歌のあの台詞も今考えれば容易に理解ができる。
彼女は、形南が復讐を躊躇う真の意図を理解してくれていたのだ。
高円寺院家の者ではない自分が復讐の実行者であれば問題はないだろうとあの短時間で考えてくれたのだろう。
そんな彼女の聡明さに敬意を示しながら形南は胸の奥が熱くなるのを感じる。
だからこそ、それを察知した兜悟朗は嶺歌の行動を止めようとしなかったのだ。
「心情的には大変お力になりたいところではあるのですが」
形南がそこまでの回答に辿り着くと兜悟朗は珍しく残念そうな声色でそんな言葉を口にする。彼がこのように感情を表に出すのはなかなか珍しい事だった。
形南は兜悟朗の背中に視線を向けながら「辛抱なさいな」と声をかける。ここまで理解できれば形南も嶺歌の復讐に反対する気は起きなかった。
(嶺歌、私のために憤ってくれたのね)
友達になってまだ日も浅い。自分はともかく、嶺歌からすれば自分が付き合いにくい存在だろうとは思っていた。
彼女が好意的に接してくれているのは分かっていたものの、嶺歌の方にはまだ境界線があると思う。いや、あると思っていたのだ。
形南の話を聞いて彼女が宣言した言葉は、魔法少女の力があると言えども簡単に口に出せるものではない。
それを嶺歌はその場で口に出してくれた。嶺歌自身のためではない。利益も何もない。それなのに、形南の気持ちを汲んで復讐してくれると、そう口にしたのだ。
それがとても――堪らなく嬉しかった。復讐だなんて、諦めていたのに。
* * *
第十三話『復讐』終
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