第十四話『独りよがり』

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(よくよく考えたら……)  夕飯を食べ終え、二人分の食器を洗っている際中だった。嶺歌(れか)は致命的な点に今更ながら気が付く。それは、当事者でもない自分が復讐を果たす事自体に問題があるのではないかという事だった。  いや、問題がありすぎる。何故先程までそこに気が付かなかったのだろうと己を省みるほどだ。 (出しゃばりすぎかな)  形南(あれな)が復讐をしない理由はそれとなく分かった。恐らく財閥としての誇りがあるのだろう。復讐という汚れた行いをしてしまえば、高円寺院家の評判は変わってしまうかもしれないのだ。  復讐を果たす事が良い行いだと思う者がいたとしても、満場一致でそれを肯定してくれるほど世の中は甘くはない。  必ず印象を悪くする者もいるはずだ。むしろ否定的に捉える者が多くを占めるだろう。そしてそれが以前から反論の眼差しで高円寺院家を見ていた者であれば尚更であろう事は明白であった。  だからこそ高円寺院家と無関係である嶺歌が復讐を行う事は問題がないと判断していた。高円寺院家の者が嶺歌に依頼をしたという邪な噂さえ出回らなければ、高円寺院家の体裁は守られる。自分だけが復讐者になる事には何も問題がなかった。  そういった思いから嶺歌は復讐を決意していたのだが、形南にとって復讐が本望ではない場合の事を全く想定していなかった。 (うわ、迷惑だったらどうしよう)  そこまで考えが行き着くと嶺歌は洗いかけの食器をシンクに置き、溜め息を吐く。  この復讐心が独りよがりのもので、形南としてはありがた迷惑な場合、とてつもなく申し訳ない事を口走ってしまったという事になる。しかしこれは本人に直接尋ねてみるしかないだろう。  中断していた食器洗いを再開すると嶺歌はそのまま家事を済ませ、早々に眠りにつく事にした。もう遅い時間だったため連絡は明日の朝にしようと決めたからだ。
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