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嶺歌が意を決して問い掛けると間を開ける事なく彼は即座に返事をした。
その彼の言葉を聞いて嶺歌は口を開く。形南の元婚約者に復讐をするとは言ったが、形南がそれを望んでいなければそれは独りよがりになってしまうという事を。
そしてそれは自分の望む展開ではないため彼女の心理が知りたいのだと正直に相談してみた。
兜悟朗であれば形南の事をよく分かっている筈だ。ヒントくらいは得られるだろうと思っての相談だった。
すると兜悟朗は静かに、だがはっきりとこのように言葉を返してきた。
『そちらの件に関して、形南お嬢様から言伝を預かっております。お嬢様は嶺歌さんがそのようなお話をされた場合、このように申せと』
「あれなから……ですか?」
『左様で御座います。嶺歌さんのご意志が固いのであれば、是非彼に報いを与えてほしいと、そう仰っておりました。本来であればご自身で告げたい事の様でしたが、お嬢様は報復の後押しをしないよう嶺歌さんから話題を持ち出される事を選ばれたのです』
兜悟朗がそれを口にすると『そしてこちらは私自身の個人的な心情となります』と新たな言葉を続けてきた。
『ご遠慮は要りません。どうかご存分に、復讐を果たして下さいますか』
その言葉はいつもの丁寧な口調であったが、普段のような穏やかな声音ではなく心の中から伝わるような強い意志を感じられた。
形南だけでなく、兜悟朗も竜脳寺に強い憎悪を抱いているのだとその一言だけで容易に理解ができた。
嶺歌は決意を固めると前を見据えながら大きく声を張り上げる。
「勿論です!」
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