第十四話『独りよがり』

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『有難う御座います。感謝以外に言葉が見つかりません。このお礼は後程必ずさせて頂きます』  そうして彼は具体的な説明をしてくれた。形南(あれな)が何故復讐をできないのか。そしてそれに対して兜悟朗(とうごろう)がどう感じていたのか。  彼は、当時の形南の状況を黙って見ている事に耐えられなかったようだ。  復讐をすぐにでも果たそうと考えたものの、しかしそれを形南に強く止められていた。形南が一番悔しいだろうに、彼女は自分の感情よりも財閥の誇りを優先し報復を断念したのだ。  それは嶺歌(れか)が予想していた内容そのものだった。  そしてそれを予想ではなく確実な情報として得る事ができた状況に嶺歌は安堵していた。 (良かった。やっぱりあたしが適任だって事なんだ)  自分の手を復讐で汚す事に躊躇いはない。嶺歌は魔法少女だ。善悪の区別くらいはしているつもりである。  復讐が褒められたものでない事は理解しているが、それを行おうと思う程の罪を彼らは行っている。これを無視する事こそ、魔法少女としての存在意義を問うものであるだろう。ここまで話を聞いた嶺歌にもはや迷いはなかった。 「兜悟朗さん、色々教えてくださってありがとうございます! 自分の中で計画を練りたいのでまたあれなに連絡すると伝えてもらえますか?」 『勿論で御座います』  電話越しであったが彼が深々とお辞儀をしたのが想像できる。  嶺歌はそんな事を思いながら電話を切るため最後の言葉を口にしようとしていると『嶺歌さん』と彼の方から名前を呼ばれた。まだ兜悟朗には何か言いたいことがあるようだった。  嶺歌がはいと答えると彼はそのまま言葉を続ける。 『貴女様一人にご負担をお掛けしてしまう事、誠に申し訳御座いません』  嶺歌が立たされた今の状況に律儀にも謝罪を申し出る兜悟朗に嶺歌は言葉を返す。これは紛れもない本心だ。 「全然です。高円寺院家の事情は聞いてますし、あたしに任せてください」  高円寺院家の事情は彼の説明で十分理解した。果たしたくとも果たせなかった復讐を代わりに自分がやり遂げる。その点に関して何も疑問は抱かなかった。
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