第十五話『決行日』

3/7
前へ
/520ページ
次へ
 嶺歌(れか)は今自分が魔法少女である事に対し普段以上に感謝していた。それは形南(あれな)の復讐に都合の良いスペックを兼ね揃えているからだ。  魔法少女になれる条件は、無欲さと善人さ、悪を見て見ぬ振りしない心の強さを揃えているのが必須事項だ。  それらを欠ける事がないと判断された人物だけが初めて魔法少女になる事ができる。  なりたいからなるという希望や、なりたくないから辞退するという放棄ができない。基本的に魔法少女は選ばれるべくして選ばれ、選ばれたからには自身が命を落とすその時まで魔法少女としての務めを果たさなければいけない。それはもう運命なのだ。  選択権のないこの状況に関して不満に思う事も抗いたいと思う事も嶺歌はなかった。だからこそ、自分は選ばれたのだろうとただそう思う。  魔法少女の力は万能だ。基本的に何でもできると言っても過言ではない。悪事に使う者がいないため、魔法の力は魔法少女に全一任されているからである。  悪に染まる者はそもそも魔法少女に選ばれない。  魔法協会は魔法少女をというより、魔法少女を選抜した己の事を信頼している。そのため魔法少女自身が悪事を働いたという事件は一度も起こったことがないのだ。  では嶺歌が今回行うことは悪事にならないのだろうか。答えはイエスだ。大切な人のためだからと言って復讐を目論むことを、肯定しようとは思わない。自分が行おうとしている事は人に自慢げに話せる事ではないからだ。  だがそれでもこれから行う事が、絶対的に悪かと言われるとそうではないのも事実である。  その理由は復讐を受ける者が、それ相応の悪事を働き、意図的に相手を傷つけた。彼を放っておく事は今後彼によって新たな犠牲者が出るかもしれない。そういった懸念もある。  それを防ぐためにも、今回の復讐は必要であり悪事であるとは言い切れないのである。  ただその考えを屁理屈のようだと嶺歌自身が思ってしまうのは、自身の心の中に形南の無念を晴らしたいという私欲的な思いが少なからずあるからなのだろう。  私的な感情を持ってしまった以上は、復讐を機械的に行う事は難しい。悪ではないが、感情を持った復讐になる事は間違いなかった。  しかしそれを理解しながらも嶺歌は止まる事はしない。復讐は必要だ。形南のためにも。
/520ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加