第十五話『決行日』

5/7
前へ
/520ページ
次へ
 いかにも初心者丸出しのメモにまるで竜脳寺(りゅうのうじ)を慕っているかの文章。  中身が傲慢そうな彼はこの手紙に悪い気はしないはずだと踏んでの事だった。  竜脳寺は予測通り、口元を緩めながら手紙に何度も目を落とすと額に手を当てて困ったようなポーズをとっている。 「僕のファンかもしれない。せっかくだから行ってみようか」  竜脳寺がそう口にすると周りからは「面白そうだね」「俺たちも行っていいか?」「竜脳寺の指導に試合、見ないわけにはいかないな!」などと歓声が上がり始めている。  しかし竜脳寺は手を上げ「待ってくれ」と皆に声を掛け始めた。 「この手紙には『恥ずかしいのでお一人で来てください』と書いてあるんだ。申し訳ないが、皆には中庭グラウンドに来ないでほしい」  竜脳寺がそう言葉にすると途端に残念そうな声が上がるものの「それは仕方ないな」「大人しく帰るか」「手紙の相手の要望を尊重するなんて優しいな!」などと言い、彼の意見を肯定する者ばかりだった。  そんな茶番とも言える彼らの様子を静観していた嶺歌(れか)はその様子に飽き飽きしてくる。  竜脳寺が学校内でどれほど慕われているのかはこの下調べの期間でよく分かっていた。  だが彼の本性を知る嶺歌からすれば今の一連のやり取りには吐き気が催すだけだ。  嶺歌は楽しげに笑う竜脳寺を睨みつけながら体育館を後にした。竜脳寺が中庭グラウンドに来るのは確定だ。ゆえにこの場に止まる理由はもはやない。これ以上この馬鹿げた光景を眺めていたくなどはなかった。
/520ページ

最初のコメントを投稿しよう!

28人が本棚に入れています
本棚に追加