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中庭グラウンドは、名前の通り中庭にあるグラウンドの事だ。嶺歌の通う学校にはない位の高い学校ならではの施設なのだろう。
中庭にあるとは言ってもその中庭の広さも通常のグラウンドの倍の広さがあり、面積がとてつもなく大きい。だからこそ嶺歌は今回この場所を選んでいた。
六時が目前になり、部活を終え下校する生徒が増えてくる。
嶺歌は透明になった状態のまま自身の横を通り抜けていく多くの生徒たちを淡々と見つめながら竜脳寺が中庭に現れるのを待った。
しばらくすると中庭グラウンドの扉が開かれ、竜脳寺が姿を見せる。どうやら本当に一人で来たらしい。
嶺歌はすぐに中庭グラウンドへ移動するとそのまま透明の魔法を解き、また新たな魔法を自身にかけた。
「どうも」
竜脳寺の前に立ちはだかる。彼は自分の目の前に立つその姿を見て訝しげな顔を見せ始めた。
「……お前は」
竜脳寺は確信的な表情を見せると途端に露骨な顔をこちらに向ける。
「形南と一緒にいた糞女じゃねえか」
彼の一つ一つの言動に思うことは多くある。だがそれは、今ではなく敢えてこの後にとっておく。
そして嶺歌はずっと口にしたかった言葉を竜脳寺を見ながら口に出した。
「あれなに謝って。土下座を一時間。それを十回」
「てめえ」
互いに睨みつけ合いながら対面する。竜脳寺は包み隠さず己の機嫌の悪さを表に出すと、そのまま嶺歌に危害を加えてきそうな勢いの鋭い視線をこちらに向けていた。
しかし嶺歌がそれに怯むことはない。魔法少女活動でこのような輩の相手をした事が何度もある嶺歌にとって竜脳寺の威圧感は何の脅威にもならないからだ。ただこのような視線を向けられ、憤りが増したのも事実である。
形南に罪悪感を抱くのが当然のこの男は、謝罪するどころか開き直って彼女に精神的な危害を加えている。
竜脳寺は婚約を解消した今も、形南に出くわせば彼女の事を馬鹿にして見下してくるのだ。自分は全く悪くないとでも言うかのように。
俺が浮気をしたのはお前が相応しくなかったからだとそう言われた事もあるらしい。
一度や二度ではなく、この半年間で何度言われたか分からないと彼女は呟いていた。これは悪を許せない嶺歌にとってあり得ない事だった。
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