第十六話『露見』

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『想像して下さい。自分の大切な人がこんな仕打ちを受けていたら黙っていますか?』  それは竜脳寺(りゅうのうじ)が婚約者を裏切って他の女性と密室で抱き合う証拠写真だった。本当は生々しい現物を見せたくはなかったのだが、万が一のために持ってきていた。  そしてその写真を目にした部長は顔を顰め、小さく唸る。 『……実を言うとこの学園の印象が悪くなる事を危惧していたんだ。すまない。だが確かに君の言う通りだね。このような事が出来てしまう人物を、このままにしておくのは学園の恥だろう』  彼は学園の印象を気にしていたのだと今の言葉で納得がいく。所詮は他人の事情だ。  学園内でこのような模範的でない生徒がいたと判明した時の事を考えると安易に記事に出来ないのは嶺歌(れか)も理解していた。  しかし今の嶺歌の言葉は効果があったようで、彼はこちらに向ける目つきを変えると嶺歌の提示した内容の記事を作成してくれる事に同意してくれた。 『竜脳寺外理(がいすけ)、不貞を働き高円寺院家である婚約者を裏切っていた。』  記事の見出しにはこう書くようお願いしていた。そして部長はそれを了承してくれていた。  この記事を見出しに大きく書くことで一気に記事への興味が駆り立てられる事だろう。  記事の詳細には彼に伝えた通りの竜脳寺の裏切りに関する詳細を事細かく書いてもらっている。  そしてもう一つお願いしていた事は、この記事作成に高円寺院(こうえんじのいん)家の者は一切無関係であるという事を強調しておくようにと伝えていた事だ。口を酸っぱくして何度も念押しをしておいた。  高円寺院家が関わっていると分かれば、世間の目は竜脳寺への信頼の喪失と共に、高円寺院家の評価も下がってしまうだろう。  たった一つの浮気如きで、仕返しをしようだなんて懐が狭いと思う輩も少なからず存在する事を嶺歌は知っているからだ。  それを懸念して嶺歌はこのような頼みをしていた。
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