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そう言って距離を縮めてくる彼女に嶺歌は戸惑いながらも悩んだ。
魔法少女として、彼女の願いを引き受けるのは何ら支障はない。
だが、こんな大役が自分に務まるのだろうか。
彼女はどう見ても間違いなく良いところのお嬢様で、その存在の大きさは形南の佇まいを見れば誰しもが理解出来るものである。
依頼の内容自体に不安はないが、依頼相手に不安がある。ただの魔法少女にすぎない自分が、彼女の望み通りに上手く依頼をこなせるのだろうか。
さまざまな思考が働き、嶺歌が葛藤していると形南は「気負わなくても大丈夫ですのよ」と言葉を返す。
「早くあの方とどうにかなりたい訳ではありませんの。長期戦で構わないのです。その間に、貴女とも交流を深められたらと思っていますのよ」
あっさりとそう言う彼女を嶺歌は思わず凝視した。それで良いのかと、呆気に取られた気持ちになる。
どうやら彼女はその運命の人と少しずつ仲を深めていければと考えているようで、急を要するものではない様子だった。
しかし、嶺歌に財閥の依頼を受けるという大役をこなせる自信はない。
だがそこまで考えて、とある考えに辿り着く。
(今まで助けてきた人間は皆、ごくごく平凡な一般人だった。だけど今回は……)
そう、財閥の娘だ。それはあまりにも重圧な上に大きな試練であり、嶺歌にとって不安ばかり募る依頼だ。だが――
(これが成功すればあたし、もっと自分を好きになれる)
純粋にそう思えた。
正直なところ、財閥の依頼を受けるのは初めての経験であるため彼女への協力が不安要素でしかないのは事実だ。
だがしかしこれらを成し遂げることで自分の評価は確実に上がる。
そしてまた一歩、魔法少女として大きな成長を遂げられるのだ。それならば、受けよう。自分の為だ。
嶺歌は決心すると彼女から外していた目線を元に戻し、しっかりとした口調で言葉を発した。
「分かりました。その依頼、受けます。よろしくお願いします!」
そう言って深く頭を下げる。
すると「まあ」という言葉の後直ぐに形南は頭を下げる嶺歌に抱きついてきた。
「有り難う御座いますの! 助かりますわ! こちらこそよろしくお願いしますのよ」
こうして、不思議なお嬢様――形南との関係が始まった。
そして彼女の護衛でもある執事の兜悟朗とも、この日から少しずつ……やがて深く関わるようになる。三人の出会いはここから、始まりとなる。
第一話『謎のお嬢様』終
next→第二話
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