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「急に大人しくなってどうしたの? さっきまでの勢いはどこいったんだよ」
嶺歌は自身の胸ぐらを掴んだまま硬直する竜脳寺に言葉を放つ。
奴はそれでも尚、事態に混乱しているのか、はたまた自分のとんでもない醜態を大衆の前で晒してしまった事に対して絶望しているのか言葉を返さない。
「いい加減離してくれる?」
嶺歌は冷たくそう言い放つとこちらの胸ぐらを掴んでいた竜脳寺の胸元をドンと押して距離を取る。奴は抵抗する気力もないのかそのままよろけると、膝をついて固まった。
そんな竜脳寺の姿を見下ろしながら嶺歌は言葉を続けて放った。
「あれなに謝る気になった?」
ざわざわと騒ぎ出す野次馬の声にかき消されないように嶺歌は声を出す。
しかしそれでも竜脳寺にはまだ僅かな意地が残っているようだ。
「するわけねえ……こんなもの……俺様が……」
「……意地汚い奴」
嶺歌は尚も認めない竜脳寺の返答に心底呆れながらも次の行動に出る。
奴がここで形南に謝罪をするのなら、嶺歌もここまでするつもりはなかった。だが悪を悪と認めず、反省しない輩を放っておく事は絶対にしない。
嶺歌は魔力の消耗を感じながらも、透明ステッキを振るって魔法の力によって具現化されたスピーカーを手に取る。同時にそこにはないはずのモニターも設置した。そうしてそのまま事を始める。
『ここに集まってる皆さんは少なくとも彼の記事の真相を知りたくてきた方達だと思います。このモニターをご覧ください』
嶺歌は中庭グラウンドの踏み台に立ち、スピーカーを持ってグラウンド内に集まった生徒たちに言葉を投げる。
そうしてもう一度透明ステッキを振るうとモニターの画面が再生され始めた。周りは先程よりも一気に騒がしさをみせる。
「あんなところにモニターなんてあったっけ?」
「竜脳寺ってほんとにあんな事をしたのか?」
「あの女の子誰?」
「真相気になるなあ……嘘だと信じてる」
「あの記事が嘘でも今見た竜脳寺くんの態度は紛れもなく本当だよね」
外野が騒ぎ始めているが嶺歌はそれにモニターの音量を最大にしてグラウンド内の全員が目にできるように演出をしてみせた。
モニターの画面は竜脳寺が形南を裏切った当時の映像だ。
画面上には竜脳寺と、竜脳寺と浮気した女――野薔薇内蘭乃の姿がある。二人は密室に入った途端口付けを交わしそのままベッドに傾れ込む。
「やっ、やめろ!!!!!!!」
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