第十七話『貫禄のある』

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「この方を罰したいのは(わたくし)なのですのよ。被害を被ってもいないのによくもまあここまで責め立てることができますのね」 「(わたくし)の立場も、考えて下さいます?」  形南(あれな)の存在感が今この場の全てを乗っ取っている。  彼女は嶺歌(れか)に普段見せる天真爛漫で無邪気なお嬢様ではなく冷徹で冷静、そしてまさに人の上に立つ貫禄のある女性である事を今この場で見せしめていた。 「異論がある方はどうぞ。(わたくし)そのような意見もきちんとお聞きしましてよ。高円寺院(こうえんじのいん)形南を敵に回したいのならですけれど、ね? いいですのよ? さあ、どなたが(わたくし)に反論なさるのかしら?」  しかし彼女のその言葉に手を挙げるものは誰一人としていない。それもそうだ。  竜脳寺(りゅうのうじ)はこの学園内では誰に対しても猫を被り、危害など加える事などなかったのだ。形南のような被害者はこの場にいる訳がない。  ゆえに異論を唱えられる者など、この場にいないのだ。シンと静まったグラウンド内で時間が経過すると形南は再び言葉を発した。 「いらっしゃらないのなら、お静かに願いますの。邪魔でたまりません」  形南の声は思わず跪いてしまいそうなほどの圧を感じた。いや、言葉だけではなく存在全てがそれらを感知させている。  彼女がいかに高貴な人物であるかをこの時嶺歌はこれまで以上にそう感じ取っていた。  竜脳寺を囲う野次馬が消えた状態で、形南は彼に向き直る。しかし跪き、顔を俯かせたままの彼は形南の方をまだ見ない。  すると形南の方から竜脳寺に向けて言葉を発し始めた。 「外理(がいすけ)様。声は聞こえていますか?」  その形南の言葉でハッとしたのか竜脳寺は瞬時に顔を上げた。彼の表情は衰弱してはいるものの、形南を見つめる瞳に僅かな光を見い出しているようだ。  竜脳寺は「形南……」と掠れた声で呟くと瞬時に体勢を変えて形南の前で跪いた。 「形南……本当に………申し訳ありませんでした」  竜脳寺は嶺歌も驚くほどに丁寧な謝罪を向ける。あんなに傲慢だった竜脳寺が地面に頭が当たってしまう程深い謝罪をしており、土下座という行動の見本を見ているかのようだった。 「本当にそう思われていらっしゃるのでしょうか」
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