第十七話『貫禄のある』

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 すると形南(あれな)は目の前で跪く彼を見下ろしながらそう言葉を告げる。 「都合が良すぎではありませんこと? 貴方は今回、このような醜態に見舞われなければ(わたくし)に謝罪などする事はなかったと思うのですの」  それは至極真っ当な意見だ。今日の一件がなければ竜脳寺(りゅうのうじ)は高飛車のまま、形南を捨てた事を反省する事などなかっただろう。  形南は直接的にその事を指摘すると竜脳寺は青ざめている顔を更に青ざめさせ、言葉を続ける。 「……それは、本当に……自分でもそう思う」 「そうですわよね」 「だけど、こうせずにはいられない……分かるだろ?」 「(わたくし)に同意を求めてどうするのです。厚かましいですのよ、元コン野郎」 「も、モトコンヤロウ? なんだそれは…?」 「元婚約者野郎の略語ですの。貴方の事ですのよ?」  形南は受け売りの名称を彼に向けて放つと、そのままにこりと笑みを溢す。 「元コン野郎様。(わたくし)貴方に言いたい事がありましたの」  形南はそう言うと自身の前で跪く竜脳寺の目線に合わせるようにしゃがみ込んだ。  そうしてそっと竜脳寺の頬に彼女の華奢な手を添える。その彼女の美しい仕草に竜脳寺は目を見開き、彼女をただただ見上げていた。 「形南……」  竜脳寺がそのまま形南の名を呼ぶと、彼女は唐突にこう告げた。 「覚悟なさいまし」 「?」 『バチーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!』 「!?!?!?」  途端に辺りが騒然となる。今、形南は竜脳寺の頬に強烈なビンタを食らわしたのだ。その音はとてつもないほどに大きく、そして見た目が小柄で華奢なお嬢様の手から発せられた音だとは思えない威力と迫力があった。 「嘘でもいいから心から申し訳ないと、そう仰れば宜しいのに。本当、馬鹿正直なお方」  形南にビンタされた竜脳寺はあまりの勢いに地面に尻をついてジンジンと痛むであろう自分の頬に手を当てている。そんな彼の頬からは、出血も見られていた。 「あら、血が出てしまいましたの? 加減もせずに御免なさいな」 「ですがこのくらい、いいですわよね」 「五体満足で、骨が折れたわけでもない。ちょっと血が出たくらい、何の問題もありませんわよね?」 「貴方の事、大嫌いなんですの。もう二度と、(わたくし)の前に現れないでくださいな」  形南はそう言うと竜脳寺にハンカチを投げ出した。それで血を拭けと言っているのだろう。  竜脳寺は形南のハンカチを受け取るとすぐにもう一度言葉を発する。 「わ、悪かった形南……や、約束する……もう二度と、お前の前には現れない」  竜脳寺はそう言ってもう一度頭を下げた。ボロボロになった彼はそれでも尚土下座を続け、そのまましばらくその状態で謝罪が行われていた。
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