第十七話『貫禄のある』

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「こちらにいらしてる皆様にお願いがありますの」  数分の時間が経過し、静まった空間で一人、形南(あれな)は口を開いた。 「今後一切、竜脳寺(りゅうのうじ)外理(がいすけ)に無礼な真似を働かないでくださいな。先程のように彼に暴言を吐いたりなどもっての外ですの。ですが勘違いなさらないでね? これは謝罪を受けた者として行う当然の義務ですの。この人に情は一切残っておりませんわ」  形南は威厳のある表情を向けて周囲一帯を制圧するかのようにそう唱えるとそのまま言葉を続けた。 「万が一、彼に危害を加える者がいると判明した暁には……高円寺院家が黙っておりませんの」  有無も言わせぬ鋭い視線で、形南は淡々と口にした。財閥のトップに立つに相応しいその態度は、嶺歌(れか)兜悟朗(とうごろう)以外のこの場の人間を恐怖で支配している。 「お返事がありませんが、よろしくて?」  シンと静まった空間に形南が物を申すと、瞬時に「はい!」「わかりました!」「絶対約束お守りします!」などという生徒たちの声が一斉に湧き上がる。  形南を敵に回すととんでもないことになるという事を彼らはこの場を持って理解したのだ。  そんな形南達の姿をぼやけた目で見つめながら嶺歌は思う。 (あれならしいな)  形南が竜脳寺を庇っている訳ではない事は理解していた。ただ彼女は、嶺歌と思考が似ている。  そう、一度反省したものを尚も痛めつけることを良しとしないそういうお嬢様なのだ。嶺歌はそれが分かり、嬉しい気持ちと同時にとても彼女らしく、人の上に立つお嬢様として模範的な姿であると純粋にそう思った。 (あーでも悔しいな)  本来は自分が全てを行い、彼女には影から復讐を見てもらう算段だったのだ。形南の登場で、高円寺院家の名誉に関しては一度問題が起きてしまうだろうう。  そうならないためにも一人で完遂したかったのに、自分が不甲斐ない。実力不足だ。  しかし今回このように魔力切れを起こしてしまったのは自分がいつも以上の魔力を消耗していたからなのは否めない。  普段なら計算できていたはずの魔力消費量も、今回できなかったのは形南の復讐に集中しすぎてしまったからだった。 (まあこんなに魔法使うなんてなかったしな)
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