第十八話『翌日』

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 それから三人でリムジンに乗車すると、形南(あれな)の家に招待された。  彼女の豪邸の中に赴くのはこれが二回目だ。事前に用意された食卓のある部屋へと連れていかれ、形南と対面する形で食事をしながら昨日の話をすることになった。  昨日嶺歌(れか)が意識を失った後の出来事はこのような感じだったらしい。  形南が中庭グラウンドにいた生徒全員に竜脳寺(りゅうのうじ)へ危害を加えない約束を取り付け、それを裏切った際には一人一人の個人的な秘匿事項を世間にばら撒くと脅しをかけたようだ。  可愛らしい見た目のこの形南がそのような物騒な言葉を口に出すのは中々にギャップがあるものだが、これが高円寺院形南なのだと今は強く納得している。  そして竜脳寺には口約束だけではなく、本当に二度と形南の前に現れぬよう誓約書を書かせたようだ。  あの後竜脳寺の父親も出動し、話し合いの結果そうなったらしい。そうして改めて竜脳寺から謝罪を受けたようだった。  彼はその日、しっかりとスーツを着用し、形南の前に跪いて正式な土下座を何度もしたらしい。 「本当に夢のようですの。あの元コン野郎が謝るだなんて、何度考えても驚きでしたわ」  形南は彼の謝罪を受け、本当に心のモヤが晴れたのだと嬉しそうに口にする。  彼女の正直な感想を耳にして嶺歌も嬉しい思いが再び込み上げてきた。しかし一つだけ懸念点もある。 「だけど、結局あたしが倒れたから高円寺院家が復讐をしたって印象を持たせることになったよね」  そうだ。嶺歌があの時倒れていなければ、きっと形南が前に出てくることもなかった。だからこそ、自分の力不足さに悔いは残っていた。 「それは違うのですのよ」 「え?」  しかし形南は否定の声を上げた。思わず彼女を凝視した嶺歌はどういうことなのかと目線で訴える。  すると形南はすぐにその言葉の意味を教えてくれた。 「嶺歌が倒れてしまわれたから前に出たという解釈は間違いですの。(わたくし)は貴女が倒れていなくても大衆の前に顔を出すおつもりでしたわ」 「ええっ!?」  そんなのは聞いていない。初耳だ。何故なら嶺歌が人気のないところで隠れて竜脳寺の謝罪を見ていてくれと彼女に話した時、形南はただ頷きそのようにすると言っていただけだった。  しかしそうではなかったのかと、嶺歌は衝撃を受けていた。
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