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「申し訳ありませんの。ですが私は、嶺歌を巻き込むと決めた瞬間から、考えておりましたのよ」
その一言でハッと思い出す。嶺歌が倒れかけ形南が目の前に現れた瞬間、彼女は確かに言っていたのだ。
――――――『私の大切なご友人が、一人で頑張られているのにこちらは何もしないだなんて、そんなの嶺歌の前でお友達だととても名乗れませんわ!』
そうか。形南はこのような人間だ。
「ですが私も決断するのが遅すぎました。結果的に嶺歌の体力を限界まで奪ってしまう形となってしまいましたの」
「本当に、ごめんなさい」
形南は急に立ち上がり、その場で深く頭を下げる。瞬間先程の兜悟朗を思い出し、嶺歌も思わず席を立った。
「待って! もう! 違うって! 謝るのはあたしの方! 高円寺院の名に傷を付けるきっかけをあたしが……」
「嶺歌、この世に大切なものはごまんとありますの。ですが私は…………」
そこまで言葉を口に出すと形南はこちらを今にも泣き出しそうな目で見つめてきた。
「何よりも、人との繋がりを大切にしたいとそう思っておりますの」
彼女は一粒の涙を零すとその場で目を伏せる。これは紛れもない本心だとこれまでの彼女とのやり取りで確信していた。
形南がいかに純情で優しく、慈悲深い女の子であるのかを今再び実感する。高円寺院家の誇りの件に関して嶺歌が気に病む事はないのだと、彼女はそう強く嶺歌に訴えている。
「ですからどうか、ご自分を責めないで下さいな。私は、嶺歌が躊躇いもなく他でもない私のために動いてくれた事に本当に、感激致しましたの」
「あれな…」
形南がこちらを見て笑みを溢す。兜悟朗が一枚のハンカチを彼女に手渡し、形南が涙を拭い終えるともう一度こちらに頭を下げてきた。
「高円寺院家として和泉嶺歌様に心から感謝申し上げますの」
形南は自身の長いスカートを両手で持ち上げるとひらりとスカートが舞う中で目を惹くほどに綺麗なお辞儀をしてきた。そうして彼女に続くように兜悟朗も胸元に手を当て深いお辞儀をしてくる。いや、兜悟朗だけではない。
唐突にしかし丁重に部屋の扉が開かれると中へ何人もの執事やメイドが入り始め、全員が嶺歌に向き合う形で深いお辞儀を披露した。
「……あの、どゆこと」
嶺歌はひたすらに混乱する。流石にこの人数ではやりすぎではなかろうか。
自分がいい事をした自覚はあるもののここまで盛大に謝礼をもらうなどと、誰が予想した事だろう。
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