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兜悟朗からプレゼントの内容はパーティーへの招待にしてはどうかと助言を受けた後、形南は嶺歌が憧れていたドレスを本人に選定してもらう事を思い付き、それと結び付けてパーティーに参加してもらうという内容で決定づけたらしい。
「ですから今回は兜悟朗の功績が大きいですわね。嶺歌の好みをきちんと把握しているだなんて流石私の執事ですの」
「あのさ」
そこで嶺歌は言葉を口にする。ずっと気になっていた事だ。
「兜悟朗さんて何者なの? 優秀すぎて驚かない日がないんだよね」
「あら、兜悟朗何かお答えしなさいな」
「えっ」
途端に嶺歌は珍しくも言葉に詰まっている兜悟朗の姿を視界に捉える。
いつの間に戻ってきていたのだろうかという驚きを上回るほどに、嶺歌は自身の発言を撤回したくなった。今の発言を、不覚にも彼に聞かれていたからだ。
「あれっ聞いて……ました!?!?!?」
嶺歌は予想外の展開に慌ててソファから立ち上がった。
しかし兜悟朗は直ぐに笑みをこぼすと嶺歌の問い掛けに小さく頷きながらこちらを優しげな目で見つめてくる。
「嶺歌さん、お褒めのお言葉誠にありがとう御座います。本日は嬉しいお言葉ばかり戴いておりますね」
彼の対応は完璧なほどに大人で紳士だった。一人で混乱していた自分が滑稽に思える。
兜悟朗は驚きこそしていたものの、嶺歌の発言に惑わされる事なく喜びの言葉を口にし、そんな彼の返事に嶺歌は素直に肯定できない自分を反省した。
何故だろうか。兜悟朗の前ではいつも異性に普段向ける態度を取る事ができない。顔を赤くすることも、褒め言葉を聞かれてこちらが恥ずかしくなるのも、手を取られて気恥ずかしくなるのも兜悟朗が初めてだ。
(ちょっと頭を冷やしたい)
嶺歌は綺麗な一礼をする兜悟朗に顔を上げてくださいと慌てて声を発すると今度は形南に向けて言葉をかけた。
「ねえ、今だけちょっとエスコートなしとかできる?」
「あら?」
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