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「威厳があってカッコよかったと思うけど。気にするとこなの?」
嶺歌は自身の率直な意見を口にする。
すると形南は暗い表情を包み隠さず、どよんとした空気を醸し出す。先ほどの威厳はどこにいったのかと思ってしまう程に、今の形南は別人のようになっていた。
(そんなに見せたくなかったのかな)
嶺歌はどうしたものかと思考していると「お嬢様」と兜悟朗の声が車内に響いた。
「嶺歌さんはお嬢様の先程のお姿を逞しく、ご立派であられると思われていらっしゃいます。面映い思いになられる事は決してないのだと、先程の行いに胸を張られるべきだとそう思われておりますよ。そして恐縮ながら私も同じように感じております」
(ええっ!?)
兜悟朗の唐突で確信めいたその発言に嶺歌は驚く。
(エスパー!?)
確かに形南の姿を見て嶺歌がそう思ったのは間違いない。だが後者は口に出した覚えがないのだ。
咄嗟に兜悟朗の方へ目線を向けると彼はこちらをチラリと見つめてから薄く笑みをこぼした。
そんな彼の視線を目にして嶺歌はようやく理解する。これは形南の気持ちを沈めさせないための彼なりの気配りなのだ。
そして同時に彼は嶺歌がそう思っている事を単なる予測ではなく、確信した上でこのように形南に話しているという事も理解していた。そんな兜悟朗の見識の広さに嶺歌は感服する。
(兜悟朗さん、すご)
「そうなのですの……?」
すると形南がこちらを見上げ、涙目の彼女と目が合う。嶺歌は本心でそう思っていたため大きく頷きそうだよと肯定してみせた。
「まあ……! 落ち込んでいる場合ではないですわね!!」
するとあっという間に形南のテンションは普段通りの彼女へと戻る。
何度見ても思うのだが、形南の喜怒哀楽は中々に激しい。
(そんなところも面白いよね)
個性的で素敵なお嬢様だと思う。嶺歌は形南と関わりが増えていくごとに彼女の新たな一面を知る事となっていたが、一度も否定的に思うような一面はなかった。
全て形南の個性なのだと、そんな彼女ともっと友好を深めたいのだと嘘偽りなくそう思えるのだ。
「今後お見せする事はないと思いたいのですが、嶺歌、私のあのような姿を見ても変わらず接して下さり感謝致しますの」
形南はそう言って律儀にお礼を述べる。嶺歌はお礼を言われる程の事には感じられなかったが彼女の好意をそのまま受け取る事にした。
思えば形南も兜悟朗も感謝を重視している。それも上辺だけのものではなくきちんと心が込められた美しい感謝だ。
その姿勢を素直に見習いたいと、二人の姿を見て嶺歌はそう思うのであった。
第二十話『第二の復讐』終
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