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平尾が形南がモテるかどうかを気にしているのは実は形南の逆玉を狙っているからであり、キープしておきたい存在だからだとしたらどうだろう。
しかしそれを悟られる訳にはいかないので嶺歌の言葉に強く否定してみせた。
いや、もしかすると嶺歌が逆玉を狙っているのではないかと言及しようとしていたと勘違いしてのあの発言だったのかもしれない。
嶺歌に弱みを握られそうになったと解釈し、平尾は嶺歌を初めて警戒対象として認め、このように敵意を向けるようになった。この線はどうだろう。
(可能性……あるな)
考えてもいなかった可能性だったが、平尾が強く否定する理由を考えると的を得ているようなそんな気もする。
彼が今ただ照れているだけで、一人の女の子として形南を好いているのなら嶺歌にとっても喜ばしい事であるが、後者であるなら話は別だ。
それが当たっているなら彼の思惑通りにいかせる訳にはいかない。
(いやー、でも考えすぎか)
だが嶺歌はそこで一旦自身の決め付けた考えを改めた。
それにそうであるとまだ確定していない今は彼を形南から引き剥がすわけにもいくまい。平尾が形南の想い人である事実は変わらないのだ。
そしてもう一つ、もし彼がそのような考えを持つ人物であれば、兜悟朗が黙っている筈がないだろう。
(そうだよな。兜悟朗さんが警戒してないのに、怪しむ必要性は……)
そこまで考えて嶺歌は気が付く。思っていた以上に嶺歌自身が兜悟朗を信用しているというという事実に。
そして何の迷いもなく彼の事を全面的に信頼している自分がとてつもなく不思議に感じられた。
(それくらい完璧な人だからな……)
そんな事を考えていると平尾は尚も居心地が悪そうにこちらに目線をやり、口にしづらそうにこんな言葉を発してきた。
「じゃ、じゃあ俺行くから」
「あーうん。じゃあね」
特に引き止める事もせず、嶺歌は平尾に軽く手を振ると平尾はそそくさとその場を後にする。まるで何か粗相をしてしまった後に逃げ帰るようなその姿を目で追いながら嶺歌は安堵していた。
(あたしが嫌われてるだけかーならいいや)
兜悟朗が何も行動に出ていない時点で懸念していた点は嘘のように無くなっていた。
先程の考えはただ嶺歌の行きすぎたものであり、平尾が形南を好きなのかはまだ明確ではないが、単に照れ隠しからあのような否定の言葉を出していただけだ。
嶺歌への敵意の眼差しも単に嶺歌が嫌いなだけなのだろう。
他者から嫌われる事を恐れない嶺歌にとっては、平尾からどう思われていようと痛くも痒くもない事だ。
そう考えると嶺歌はスッキリし、何のしこりも残さず裏庭を後にするのであった。
第二十一話『疑惑と信頼』終
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