第二十二話『公認尾行』

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 形南(あれな)と平尾のデート場所は電車を乗り継いだ先の水族館だ。形南が電車に乗るなど想像もつかないのだが、彼女は平尾と電車に乗るのだと嬉しそうに話していた。  そして形南と平尾のデートには嶺歌(れか)だけではなく、兜悟朗(とうごろう)も任命されている。  土曜日の予定が奇跡的に空いていた嶺歌はその日を迎えると迅速に身支度を済ませ外に出た。 「嶺歌さんおはよう御座います」  マンションのエントランスに出ると聞き慣れた声が嶺歌の耳に響く。  この声は兜悟朗だ。彼と当日は二人で形南達のデートを尾行する(見守る)という話になっていたため彼の姿がここにある事に何ら違和感はない。 「おはようございます兜悟朗さん。今日はよろしくお願いします」  嶺歌がそう彼に向かって小さくお辞儀をすると兜悟朗は相変わらず柔らかな笑みをこちらに向け深々と丁重な一礼をしてきた。 「本日は貴重なお休みを、形南お嬢様の為にご使用いただき有難う御座います」 「とんでもないです! 予定も空いてましたし気にしないで下さい」  嶺歌はそう言うといつもとは違った装いをしている兜悟朗に両手を振ってみせた。  彼は今日グレーのジップ付きパーカーに暗めの色のチノパンツを着用している。初めて見る兜悟朗のラフな格好だ。  彼のこの姿を見るに、兜悟朗は形南から平尾にバレないようにと執事服の着用を禁じたようだ。  対する嶺歌も、当日は目立たないかつ怪しまれない装いで見守ってくれると助かると形南からお願いをされていた。平尾とのデートを尾行するとは言ってもあくまでこれは尾行だ。  平尾にバレないように普段とは違った衣服で変装した方が無難だろう。  そう思い嶺歌も形南の意見に賛成し、今日の自分はいつもの明るめの服装ではなく、地味目の暗い印象を抱かせる装いをして外出していた。  変装という事で嶺歌は紺色のキャップも被っている。
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