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「それでは参りましょうか」
兜悟朗のその声で嶺歌は早速彼と共に目的地の駅へ向かい始める。自動車だと尾行に不便であるため、今回は交通機関を使って移動する手筈となっていた。
嶺歌と兜悟朗は形南たちが乗車した電車の一つ後ろの車両で数分揺られながら形南達のデート場である『未来と過去の水族館』へ足を運んだ。
形南からは定期的にグループレインで連絡がくるように打ち合わせ済みである。
この機会に兜悟朗とレインの交換をする形となった嶺歌だが、いまだに形南と一緒のグループレインでしか会話をした事はなく、彼と一対一でメッセージのやり取りはしていない。
しかし二人だけで連絡をする用件がないのだからそれはおかしな話ではなかった。
水族館の前へ到着した嶺歌たちは、形南のレインを見てから、形南と平尾が水族館の中へ入った事を肉眼で確認した。そうして兜悟朗と二人で後に続くように入場口へ歩いていく。
『平尾様と順調ですの♡ 兜悟朗、私と平尾様のツーショットを遠くから写しておいてちょうだいね』
形南からはそのようなレインが届いており、その主人の命令を忠実に守るように兜悟朗は一眼レフを構え、二人を撮影していた。
「音も光も出ないんですね」
嶺歌は率直に思った意見を口にする。
すると兜悟朗は穏やかに微笑みながら「はい。平尾様に気付かれぬようにと慎重に選び抜いたカメラで御座います」と言葉を発した。流石は有能な執事だ。
嶺歌は再び撮影を始める兜悟朗の背中を見つめながら彼の手を抜かない姿に何度目か分からない感心を示すのであった。
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