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「わ、かりました……」
瞬間嶺歌の顔は熱くなる。兜悟朗に触れるのは慣れないからだ。
しかし払いのける訳にも無視する訳にもいかず、大人しく彼の手を取る。それにしてもこの庶民的な水族館でこのようなエスコートは、中々に気恥ずかしい。
(いや、どんな場所でもこの人だと恥ずかしいんだったあたし)
そんな事を今更にも自覚して、嶺歌は兜悟朗にエスコートをされながら昼食を食べに足を動かし始めた。
昼食は形南たちと鉢合わせないようにフードコードから少し離れたレストランで食べる事となった。
兜悟朗は終始笑顔で「お好きなものをご注文下さい。ささやかながら私がご馳走させて頂きます」と胸に手を添えながら言葉にしてきた。
嶺歌は迷ったが、嶺歌がいやいやと奢られるのを渋ったところで最終的には奢ってもらう形になる気がしてならない。ここは有り難くお言葉に甘える事にしよう。
(今度お礼しよ)
しかしこちらもされてばかりでは気が済まない。やはり性分なのか貸しを作りっぱなしなのは自分の性格に合わなかった。
嬉しい思いよりも遥かに胸のもやが強まるのだ。
これは魔法少女としては正常な感情なのだと思う。味を占めて奢られる事に慣れるというのは、嶺歌にはない選択肢だった。
「ありがとうございます。兜悟朗さんは何を頼むんですか?」
メニューを広げ自身の好みの料理を選出しながら向かいの席へ座る兜悟朗へ問い掛ける。
すると彼は嶺歌と同様にメニューに目を落としながらとある一品を手で差してきた。
「私はこちらを。嶺歌さんはごゆっくりお選びになられて下さい」
兜悟朗は注文の品を選ぶのも早かった。彼が選んだのはサラダと豚肉がセットになったスタミナ料理だ。
このメニューにお米はなく、代わりに豆腐がついてくるらしい。
嶺歌としては、迷っておりますなどと口にしてまだ選び続けるものかと思っていたが、今のを見て改めて兜悟朗の俊敏さを実感していた。
彼にゆっくり選ぶよう言われてはいたものの、嶺歌も内心急いでメニューを決めた。
そうしてそのまま店員を呼び、注文した料理が運び込まれると二人は昼食を食べ始めた。
第二十二話『公認尾行』終
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