第二十三話『フラグのような』

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第二十三話『フラグのような』

 嶺歌(れか)は黙々と食していたせいか、二人に訪れていた沈黙を食べ終えたところで認識していた。しかし不思議と嫌な沈黙ではない。  兜悟朗(とうごろう)も丁重に口元を拭いながらその場で時間を過ごしてる。  今日一日見ていて分かった事だが、彼は沈黙の状態でも形南からの通知が鳴るまではスマホに手を伸ばそうとはしなかった。  今の世代の若者は、暇さえあればスマホを見てしまう人間ばかりだ。嶺歌もそれは否めない。  だが兜悟朗はそのような事なく、綺麗な姿勢で静かに座っている。 (本当に完璧な人だな)  嶺歌はただただ目の前にいる兜悟朗にそんな感想を抱きながらスマホに目を向けてみる。  時間は十二時半だ。あと三十分は休憩時間なわけだが、この後はどうしたものだろうか。  そんなことを思いながら兜悟朗の方に視線を向ける。  兜悟朗の食事の摂り方はまさに紳士という名を体現したような美しいものだった。作法を心得ているのだろう。  食べ残しなど一切なく、食べている時の姿勢も品があり、それがまた彼の紳士さを際立たせていた。  食事にかける時間も早くも遅くもない丁度良い具合の摂取時間であり、彼に欠点などつけようもない程だ。  そうして嶺歌はもう一つの事に頭を巡らせ始める。  目の前には長身で紳士的な腰の低い男性が座っており、今その男性と二人きりで食事を摂っていた所なのだと。このような状況を客観的に考えるとそれは―――― (こうしているとなんか…………)  側から見たらそう思われるのだろうか。しかし他でもない嶺歌自身がそれを考え、感じている。そう、これではまるでデートをしているようだと。  だがこれは形南(あれな)のデートを尾行する為のものであり、二人きりではあるものの決してデートとは言えないだろう。 (そうそう、何考えてんのあたし)
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