第二十三話『フラグのような』

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 嶺歌(れか)は首を振り自身の考えを打ち消す。  だが、普段から異性と二人きりで出掛けるのを意図的に避けている嶺歌が、兜悟朗(とうごろう)と二人で出掛けるという事に関しては、自然と嫌ではないと思うそんな自分がいた。 「嶺歌さん」  そこでハッと我に返る。兜悟朗に名前を呼ばれて先程までの思考を一掃した嶺歌ははいと大きく返事を返す。  すると兜悟朗は穏やかな笑みを維持しながら「疲れておりませんか」と労わる言葉を口にしてきた。 「大丈夫ですよ! お昼もしっかり食べましたし全然動けます!」  もしかしたら三十分前行動をするのかもしれない。形南(あれな)には十三時までと言われてはいたものの、優秀な兜悟朗の事だ。一足先に行動に出るのも執事の極意ではないのだろうか。  そんな事を思った嶺歌は急いで席を立とうとするがしかしそれは瞬時に兜悟朗に止められた。  不思議そうに兜悟朗を見返していると「まだお時間は御座いますのでどうぞお掛けになって下さい」と笑みをこぼしてくる。 「いいんですか? てっきり時間前行動するのかと」  兜悟朗の呼び止めに拍子抜けした嶺歌は疑問を持つがままに問い掛けてみた。  すると兜悟朗はその言葉に直ぐ返答をする。 「まだその時間にはお早いですから」  そう言って再び笑みを向けてきた。  彼の表情はいつも笑みで包まれており、兜悟朗といえば笑顔以外に顔が思い浮かばない程になっている。  それほどまでに彼の印象はいつも柔らかく、それが嶺歌にとって心地良い。いや、心地良くなっているのだ。それに気付いたのは本当に最近の事だった。 「分かりました。いつでも行けるんでタイミングが来たら教えてください」  嶺歌はそんな事を思いながら兜悟朗へそう言葉を返す。  兜悟朗はこちらの配慮に律儀にお礼を告げると自身の腕時計を見やり「五十分になられたら参りましょうか」と言葉にした。  嶺歌はすぐに頷き行動開始の時間が確定する。さて、あと十五分ほど時間がある。
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