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すると兜悟朗は勿論で御座いますと再び頷く。
嶺歌は彼のその姿勢を目にしてすぐに礼を述べると彼は頷いた後に口を開き始めた。
「お嬢様の事は一人の淑女として心から尊敬しております」
兜悟朗は笑みを続けたまま言葉を口にする。
形南の前向きな姿勢、切り替えの早さ、そしてどんな状況でも高円寺院家としての誇りを持ち、その名に恥じぬよう努力を惜しまない所であると彼は穏やかな雰囲気で彼女の尊敬する点を教えてくれた。嶺歌もその言葉に何度も頷く。
形南は一見天真爛漫なおてんばお嬢様の印象が強いが、努力家であり、自分をきちんと持っている。強くて逞しいそんな淑女なのだ。
嶺歌は兜悟朗の回答に納得し満足していると「ですが」と彼は尚も言葉を続けた。
「そちらの点だけではありません」
兜悟朗は正しく綺麗な姿勢を保ったまま嶺歌に視線を合わせた。
兜悟朗の穏やかな目線は嶺歌の心も一瞬で和やかにしてくれるそんな力がある。嶺歌はただ兜悟朗が言葉を終えるまで静かに彼の声を耳に聞き入れる。
「形南お嬢様の恋に対する一心の想い、その姿勢を強く尊敬しているのです」
予想外の回答に嶺歌は驚き、目を見開く。まさか兜悟朗の口から恋の話題が出てくるとは思いもしなかったからだ。
しかし彼は真面目にそう言の葉を紡ぎ出し、それが冗談ではないと彼の態度全てで読み取る事が出来ていた。
「私には分かりかねる感情で御座いますから、そのような心を私より十も若い形南お嬢様が懸命に追求されていく姿勢に、感銘を受けているのです」
(……そうなんだ)
兜悟朗は恋を知らないのだと、自らの事を口にした。意外のようなそうでもないような、しかし彼が知らないその感情を、日々追い求める形南に心から感嘆したのだろうとそう感じられた。
「以前、形南お嬢様が嶺歌さんと私を口添えされようとなられた事を覚えておりますか」
「ありましたね、覚えてます」
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