第二十三話『フラグのような』

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嶺歌(れか)兜悟朗(とうごろう)そちらにいますの?」  平尾が完全に形南(あれな)達の視界から消えた時、形南から声が掛けられる。  彼女の推測通りの場所に身を潜めていた二人はそのまま形南の前へ姿を現した。 「デートお疲れ。めっちゃいい雰囲気だったよ」  嶺歌がすぐに手を振って笑みを向けながら彼女にそう告げると形南は嬉しそうに口元を緩ませながら「まあ、本当ですの?」と頬を染めた。 「嶺歌も兜悟朗もお疲れ様ですの。本日は(わたくし)の我儘に付き合ってくださって本当に感謝致しますの」  形南はそう言うと嶺歌に向けて丁重なお辞儀をした。  いつ見ても美しい姿勢のその一礼は、嶺歌が見ようみまねで体得できるとは思えない程のものである。嶺歌は笑いながら形南の謝礼を受け入れる。 「楽しかったから全然いいって。じゃああたしも今日はもう帰るね、今度改めて詳しく感想聞かせてよ」  明日は明日で約束がある。クラスの友人らと数人で集まって遊園地に行くのだ。早起きの必要がある為そろそろお暇するのが賢明だろう。  するとそんな嶺歌の言葉に形南はこんな事を口にする。 「それでしたら兜悟朗、嶺歌をご自宅まで送っていきなさいな」 「畏まりました」 「えっいいよ!!」  形南の命令に瞬時に反応した兜悟朗に嶺歌も瞬時に反応を返す。  ここから自宅までそう遠くはない。散歩にちょうどいいくらいだ。まだ外もそこまで暗くはない為、形南が夜道は危険だからと心配する必要も感じられない。  嶺歌は彼女の提案を断るがしかし、形南ではなく兜悟朗が言葉を返した。 「嶺歌さん、不都合でなければ是非(わたくし)に送迎させていただけないでしょうか。お話ししたい事も御座います」 (話したい事……?)  何だろうと思いながら、彼にそう言われ断りたくない自分がいた。  兜悟朗と尾行している間も思っていた事だが、兜悟朗と共に行動するのは一切のストレスを感じられなかった。  彼がそれを意識していての事なのか素の状態での事なのかは定かではないが、それでも嶺歌は兜悟朗と一緒にいる事に安心感を持っていた。  そんな状態の嶺歌が断れる筈もなく「じゃあ、お言葉に甘えてお願いします」と小さく会釈をする。  そう素直に声を発した嶺歌を前にして形南と兜悟朗は嬉しそうに微笑みを向けてくる。この主従は本当にお人好しだ。
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