第二十三話『フラグのような』

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「それでは嶺歌(れか)、また近い内にお会いしましょうね。ご連絡差し上げますの」 「うん、あれな。またね」  すると数秒とかからない内に兜悟朗(とうごろう)の代わりとなる別の執事が現れる。  その執事が形南(あれな)の荷物を持ちながら形南と共に巨大な門の中へと入っていくのを兜悟朗と二人で見送りながら、彼女らの姿が消えるのを確認すると「それでは我々も参りましょうか」と兜悟朗の声が耳に響いた。 「お願いします」  嶺歌はもう一度会釈をすると兜悟朗に並んで歩き出す。どうやら徒歩で送ってくれるらしい。歩くのが好きな嶺歌にとっては嬉しい事だった。  無言で歩く訳でもなく、兜悟朗の方からそれとなく返しやすい言葉を投げかけられていた。  彼は会話の術も長けており、こちらが不快に感じるような言葉も困るような台詞も言ってくることはなかった。本当に完璧な執事だ。  嶺歌は彼と会話をしながらそんな事を思い、足を動かしていた。  マンションの目の前まで到着し、兜悟朗に向き直ってお礼を述べる。しかし何か忘れていたような気がした嶺歌はそこで瞬時に思い出した。 (話って何だろう)  道中、彼からの話は取り留めのない一般的な話のみだった。特に嶺歌に伝えたいというような内容のものではなく、誰が聞いても無難そうなそんな内容だったのだ。  兜悟朗が事前に口にしていた事をうっかり言い忘れてしまうような人間には見えない。それならば話すとしたらこのタイミングなのだろう。  そう考えていると案の定、兜悟朗は嶺歌のお礼の言葉に「とんでも御座いません」と言葉を返してから改めてこちらに向き直り、口を開く。 「嶺歌さん、改めまして先日は有難う御座いました。感謝申し上げます」 「先日というと……」  その表現からすると今日の事ではなく、以前の事をさしているのだろう。だが嶺歌には心当たりがない。  しかし兜悟朗は直ぐに「形南お嬢様の報復の件で御座います」と言葉を付け足した。 「それは前にもたくさんお礼を言われました。だからもう十分ですよ」
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