第二十三話『フラグのような』

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 嶺歌(れか)は何事も一度の事に一度返してもらえればそれでいいと思う人間だ。欲張りたいとも、それ以上を求めようとも思わない。平等性を重視しているからだ。  そのため兜悟朗(とうごろう)が再び感謝を口にする必要はない。しかし兜悟朗は小さく微笑みを返し嶺歌に向けて言葉を返す。 「このようなお話をするからにはもう一度感謝を示したかったのです。どうかお許しください」  そう言って柔らかな一礼を見せた彼に嶺歌は小さく頷いた。  彼の丁寧な所作は今に始まった事ではないが、いつ見ても現実では中々お目にかかれないような丁重さだ。  兜悟朗は一礼を終えると早速言葉の続きを口にし始めた。 「嶺歌さんにご提案いただいた通り、当日はお嬢様と(わたくし)の二人で報復の現場を物陰から拝見しておりました」  兜悟朗は竜脳寺に復讐した時の話を持ち出している。  嶺歌は彼が何を言わんとしているのか、想像はできなかったもののそのまま彼の言葉に都度相槌を打ち、静かに聞き入る事にした。 「嶺歌さんは多くの計画を巧みに扱われ、竜脳寺を無力化された事と存じております」  嶺歌はその言葉で当時の現場を思い出す。  最初こそは嶺歌に牙を剥いていた竜脳寺(りゅうのうじ)も最終的には精神を追い詰められ、形南(あれな)に謝罪する姿勢を見せてくれた。 「形南お嬢様は仰られました。瓦解され、骨抜きにされた竜脳寺をそれ以上追い詰めることはお望みではないと。形南お嬢様は慈悲深いお方。そのようにご判断なされるのはあの方に仕える身としてこの上ない幸せです。しかしそれはお嬢様だけでは御座いませんでした」
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