第二十三話『フラグのような』

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 兜悟朗(とうごろう)はそこまで話して嶺歌(れか)の瞳に優しく目線を合わせ直す。彼の透き通った深緑色の瞳は、どこまでも形南(あれな)への忠誠心に溢れていて、頼もしく思える。 「通常であれば、善悪の両方面を持つ人間は、報復者に対して慈悲を与える決断を下せません。恨みや悲しみ、憤りや憎悪が先走り、そのような感情を持ち合わせる事ができる者は数少ないと認識しております」  兜悟朗は自身の胸元に手を添えてそっと目を伏せる。彼の言っている事はよく理解できる。  この世には善だけの側面を持つ人間など存在しない。逆に悪だけの側面を持つ人間もいないだろう。  皆、程度はあれどそれなりに善悪を持ち合わせ、その感情と闘い生活をしている。それはごく当然であり当たり前の事だ。  問題なのは悪の感情をいかに抑え、善の感情を表に出して暮らしていけるかである。  嶺歌が魔法少女の姿で無力化する悪人はいつだってその悪の感情が膨らんでしまった人間であるのだ。 「嶺歌さんはお嬢様の一声がなくとも、無力化された竜脳寺が第三者の手で虐げられる事を良しとされませんでした」  竜脳寺(りゅうのうじ)が謝罪の意思を表明した時、嶺歌は確かに思った。彼をこれ以上痛めつける必要はもうないと。復讐は十分に果たし、あとは形南への謝罪をしてもらい、彼女の判断に任せるとそう決めていたからだ。  それに白旗をあげている人間を痛めつけるのは嶺歌の心が許せないからだった。 「嶺歌さん」
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