第二十三話『フラグのような』

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 兜悟朗(とうごろう)はもう一度こちらの名を呼ぶ。 「貴女は正義を貫かれるお方なのですね」  そう告げた彼はいつもとは違うような雰囲気でこちらを見据える。彼の真摯に見つめるその視線に嶺歌(れか)は瞳が揺れ動いた。 「悪を悪として裁き、正義を絶対的に優先されるお方」  兜悟朗の言葉は一つ一つに重みがあった。  言葉の意味も、彼の発する声の質も、それを口にする彼自身の全てが、嶺歌に大きな意味を生み出している。 「そして」  そこまで口を開くと兜悟朗は嶺歌の元へ一歩足を進め、先程よりも距離が近くなる。だがそれを避けたいとは思わない自分がいた。 「たとえそれが、元悪人であったとしても、貴女は正義を……選ばれる」  兜悟朗の声色は穏やかで優しみの籠ったものだった。  しかしいつもと違うと感じるのは、その言葉の奥に、どことなく知っているものが含まれていたからだ。そう、形南(あれな)に敬服を込めて放たれる兜悟朗の言葉に、少し似ているのだ。 「あの日、お嬢様の無念を晴らされた日から(わたくし)は貴女に尊敬の念を抱いてやまないのです」  兜悟朗の声音は、確かに先程と変わっている。だがそこに頭を巡らせる前に彼は再び言葉を発してきた。 「この場で(わたくし)から、貴女様に敬意を示させて頂いてもよろしいでしょうか」  そう告げた兜悟朗はその大きな手をこちらにそっと差し出してくる。いつもリムジンから降車する際に差し出される大きな手と同じであったが、今回はまたいつものそれとは違っていた。  嶺歌は顔が赤くなるのを自覚しながら「そ、れは全然……」と声を絞り出す。照れ臭い予想外のこの展開に、ついていけなかったのだ。  しかし心は正直で嶺歌の胸は弾むように高鳴っている。
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