28人が本棚に入れています
本棚に追加
/520ページ
(手を掴まれるのかな……)
ドキドキと胸の鼓動が速まるのを実感しながら嶺歌は兜悟朗の差し出された右手に自身の右手をそっと重ねる。
指先だけを静かに触れさせるとそのまま彼の指に包み込まれ、嶺歌の右手はあっという間に兜悟朗の口元へ引き寄せられていた。
「!?!?!?」
音も立たないほど丁寧な口付けが嶺歌の右手の甲へ放たれる。
嶺歌は想像もしなかった事態に顔が真っ赤に染まり上がるとそのまま思考回路が停止した。
そんな嶺歌の目の前であまりにも丁重なキスを落とし終えた兜悟朗はそっと嶺歌の右手を解放し、体勢を戻すとゆっくりお辞儀をした。
「許可をいただきありがとうございます。今後何か御座いましたら形南お嬢様と僕は、必ず貴女様のお力になる事を誓います」
そう宣言した兜悟朗はもう一度柔らかい笑みを向けて一礼をすると「どうぞ本日はごゆっくりお休みになられて下さい」と言葉を残して立ち去っていく。
ポカンと彼の背中を見つめていた嶺歌は先程起こった光景を何度も頭の中で再生し、そしてもう一つの事に目を見開いていた。
(僕って言った……!!!!!?)
兜悟朗の一人称は間違いなく僕に変わっていた。その違いが何なのか嶺歌にはまだ分からずにいたが、少なくとも彼から今まで以上に信頼され始めているという事実だけは、この状況でも理解する事が出来ていた。
第二十三話『フラグのような』終
next→第二十四話
最初のコメントを投稿しよう!