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執事の兜悟朗がリムジンの扉を開けたのだ。
「和泉様、どうぞ」
「あ、どうも……」
突如目の前に差し出された彼の手は妙にくすぐったさを感じた。異性に慣れていない訳ではないが、目上の男性にこの様にエスコートをされた経験はないのだ。
だが断る訳にもいかずおずおずと兜悟朗の手を取るとそのままリムジンから降車した。
すると背後から形南の声が聞こえてくる。
「では嶺歌さん、また伺いますわ」
「それでは私も、失礼致します」
形南が手を振りながらそう言い、兜悟朗が胸元に手を当てながら礼儀正しくお辞儀をする。
それを目の前で呆気に取られながら見ているといつの間にか兜悟朗は運転席へと着席し、リムジンが動き出していた。動きに全く無駄がない。
嶺歌は自身の目の前から立ち去った二人の姿を頭に浮かべながらとりあえず家に戻ろうと真後ろにあるマンションのエントランスへ足を向けるのであった。
第二話『疑問を問う』終
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