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「だ、だってさ……」
「うん、何?」
平尾の言葉に重なるように嶺歌は声を出す。
しかしどうやら彼には彼の言い分があるようで、一方的に形南から嶺歌を引き離そうとしている訳ではないようだ。それが分かり少し安堵する。
「その……お、おいしい思いをしてるだろ?」
「はあ? 何それ、意味不明だけど」
平尾の言っている事が分からず嶺歌は声を感情のままに出す。
平尾はその反応に怖気付きながらもしかし逃げる様子はなかった。彼の強い意志がそうさせているのだと理解できた嶺歌は平尾のそんな姿勢にだけは心の中で評価した。
だが未だ彼の真意が読めないため、嶺歌からの質問は続く。
「はっきり言ってよ。回りくどいよ」
嶺歌は平尾に詰め寄り、そう言葉をはっきり投げかけると平尾は後退りをしながら小さく、しかし長々と言葉を口にし始めた。
「あ、あれちゃんに車も買えそうな程高級な洋服をか、買ってもらったり……貸し切りレストランに案内してもらったり……ご、豪華なパーティーまで…やってもらったんでしょ? そ、それって……ほんとに友達なの?」
「あー……それは」
嶺歌はそこでようやく平尾の言わんとしている事が分かった。彼は形南をただただ心配しているのだ。
平尾の口にする事は全て事実で実際に起こった出来事であり、それら全てに嶺歌が関わっている。彼がそう言うのも変な話ではない。
きっと土曜日の形南とのデートの時に、形南から色々と聞いて不安に駆られたのだろう。
形南としてはきっと何の隔たりもなく嶺歌にした事実を楽しげに話しただけにすぎないであろう事は彼女の性格からして予測することが出来た。
つまり、平尾が一人で不安になってこうして嶺歌に物申しに来ているだけなのだ。形南は無関係で、平尾も善意からの行動であることが分かる。
(なんだ、良かった)
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