第二十四話『誤解して先走り』

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 平尾への警戒は一気に解け、嶺歌(れか)は心の底から安堵した。彼は形南(あれな)を心配してこのような言葉を口にしている。  それも、怖いであろうこの状況に逃げる様子もなかった。  形南への思いが恋であるのか友情なのかは分からないが、それでも彼にとっての形南はそこまでする程の存在になっているのだ。それが理解できた事が嶺歌は嬉しかった。  だがしかし、その喜びに浸る前に平尾との問題をどうにかせねばならない。  嶺歌から平尾に対する警戒は解けたものの、彼から嶺歌への警戒は解けてはいない。  何故なら平尾の言っている事は事実起きていた事で、嶺歌にとってもその出来事は考えるところがあったからだ。  形南にほぼ無理やりそうさせられていたとはいえ、自分もお言葉に甘えてしまっていた事実は否めない。  嶺歌は何と答えようか迷いながらとりあえず言葉を出そうと口を開きかけると平尾は再三の声を上げてきた。 「あれちゃんを利用しておいしい思いをするのは……見過ごせない」 「あれちゃんは……僕や和泉さんなんかが釣り合うような女の子じゃないんだ……!!!」  平尾が力拳を作り、真剣な様子でそう言葉にするのを嶺歌は正面から見ていた。彼の気持ちは正真正銘の善意であり正義だ。嶺歌は彼の言い分に言葉を返す。 「それは一理ある」  すると平尾はハッとした様子で嶺歌を見た。彼より僅かに身長の高い嶺歌は平尾を見据えると言葉を続けた。 「でも決めるのはあんたじゃない。あれなでしょ」  嶺歌のはっきりとした口調に平尾は口を開けたまま静止した。開き直っていると思われているのだろうか。  嶺歌ははーっと息を吐くともう一言付け加える。 「あたし、勝手に決めつけられるのって嫌なんだよね。ちょっとこっち座ってよ。話そ」  そう言って裏庭のベンチに腰掛けた。二人座れるように空間を開けてポンポンと空席を叩いてみせる。 「え、あ、う、うん」  平尾は先程までの威勢がすっかり消え、辿々しい言葉を放ちながら嶺歌の隣に座り出した。  だが未だに嶺歌への警戒は健在している様子でこちらに決していいものとはいえない空気感を放っている。
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