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そう思いながら嶺歌は口元が自然に緩んでいた。
嬉しい情報を得た事で気分は先程と百八十度変わり、自分の事のように喜んでいる自分がいた。
「デートはどうだった?」
「でっデートじゃないよっ!?」
嶺歌の二回目の質問に平尾は動揺を隠せていない。満更でもなさそうな顔をしているのに何故デートを否定するのだろう。
「何言ってんの? デート以外に何があんのさ。男と女が二人で出掛けてんだから歴としたデートでしょ」
嶺歌は呆れて平尾を見やった。腿の上に肘を置いて頬杖をつくとそのまま「で? どうだったの?」と答えを催促する。
平尾は嶺歌の言葉に反論したそうな顔をしながらも、縮こまった様子で言葉を返してきた。
「う、うん凄く楽しかった…電車乗るの初めてなんだって。でも凄く楽しんでくれてた」
ボソボソと小さな声でそう答える。
嶺歌は平尾のウジウジした姿に好感を持てずにいたが、それでも形南への強い思いを持っていると分かった今は、彼に対する見方がまた少し変わっていた。
本人の口から楽しかったと聞けて嶺歌は嬉しい気持ちになる。
「そっか良かった。告白はしないの?」
「いっ!? いや、そんなの……あり得ないでしょ」
しかし平尾の意味不明な回答で嶺歌は瞬時に目の色を変えた。彼の否定する考えが分からないからだ。
嶺歌は再び眉根を寄せてはあ? と声を出すと何故あり得ないのかを問い掛ける。平尾は頭を俯かせながらだってと声を上げた。
「あれちゃんは遠い存在の女の子だよ……俺なんかじゃ届かない」
「さっきも言ったけど、決めるのはあれなでしょ」
嶺歌はそう言って平尾の背中をバシッと叩いた。
突然のその衝撃に目を見開き驚愕した平尾は言葉にならない様子でこちらを見てくる。
重たそうな瞳はいつもの倍ほど見開き、何が起こったか分からない様子だった。
「あれなの気持ちも知らないくせに勝手に決めつけんなっての。無理に告白しろとは言わないけどさ、これからもあれなと一緒に遊びに行けばいいじゃん。諦めるのは早いと思うけど」
そう言って嶺歌は立ち上がる。そろそろ昼ごはんを食べておかないと午後の授業が持ちそうにない。
嶺歌は平尾に「そういう事だから」と言葉を残し、立ち去ろうとすると「ま、待って」と呼び止められた。
「何?」
「あ、ありがとう」
「うん、頑張れ」
平尾は表情が少し明るくなったような気がする。
それは今の嶺歌の一言で、形南に対する向き合い方が彼の中で決まったからなのかもしれない。
二人にとっていい方向に向かうのなら、それ程喜ばしいことはないだろう。
嶺歌はそんな事を思いながら平尾を残して裏庭から立ち去るのであった。
第二十四話『誤解して先走り』終
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