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兜悟朗の態度が以前より親しみが増したような気がするのは勘違いなどではないだろう。
彼はあの日確かに嶺歌に対して敬意を示し、口付けまで行ったのだ。
「ちょ、ちょっと暑くて。気を遣ってくれてありがとうございます」
嶺歌はぎこちない口調でそう言うと彼にハンカチを返す。いや、ここは洗って返すのが礼儀だろう。
嶺歌は洗って返すと言葉を付け加え手元にハンカチを戻し始めるが、兜悟朗はそっと嶺歌の手に持つハンカチを取り、小さく微笑む。
「お気遣い有難う御座います。ですがご心配は要りません。ハンカチは使用するためにあるのですから」
彼の紳士的な対応に嶺歌は再び顔が赤く染まる。彼は気付いているのだろうか。嶺歌は自身の顔の熱を必死で冷まそうとしていると途端に形南の声が耳に入ってくる。
「嶺歌、おはようございますですの!」
形南は嬉しそうな顔をしてこちらに駆けてくる。
彼女は髪の毛をハーフアップにして、後ろを可愛らしいお団子状にしていた。服装も、フェミニンなトップスに丈長のジーンズを履いて動きやすそうだ。
「あれながジーパン!? 珍しいね! でもめっちゃ似合ってる」
嶺歌は貴重な形南のジーンズ姿に目を見開く。彼女の登場のおかげで兜悟朗への気持ちの高鳴りが落ち着いた事に内心安堵しながらも、形南の服装に気持ちが高鳴っていた。
「うふふ、ありがとうですの。本日は平尾様とのレジャーデート。平尾様の好感度を上げる為に研究しましたの」
形南がジーンズを履くことは勿論、ズボン類を履いている姿を見た事がなかった。いつも財閥の令嬢らしく上品な膝下のスカートを着用していたからだ。
しかし今日の形南の姿はいつもの装いとは見間違う程にカジュアルであり、だがそれもまた形南によく似合っていた。
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