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「いいね、平尾君に合わせたんだ」
「あら嶺歌ってば。その通りなのですの」
形南は嶺歌の言葉にすぐ肯定してみせるとその後一拍置いてからこんな言葉を口に出す。
「ねえ嶺歌、兜悟朗の今日の装いも中々に珍しいでしょう? 本日はアットホームな装いをするように指示をしていましたの」
「……うん。凄く新鮮だと思う」
言葉をつっかえそうになるのを必死で制御し、普通を装ってそんな返答を口にする。珍しいどころではなく、彼の遊園地に全く違和感のないこのラフな格好は嶺歌の鼓動を速める要因の一つであった。
「お褒めに預かり光栄です。有難う御座います」
兜悟朗は尚も腰の低い姿勢で嶺歌に柔らかな笑みを向けてくる。
そんな兜悟朗を前に再び顔が赤くなりそうになる事を覚悟していると、しかし次の彼の言葉で嶺歌はある疑問に直面した。
「本日は御三方のお出掛けに、私をお招き頂き有難う御座います」
(え?)
嶺歌は耳を疑った。兜悟朗の一人称が『僕』ではなく『私』に戻っているからだ。
つい先程まで確かに僕と呼称していたのに何故変えたのだろう。偶々や間違えてというのは兜悟朗に限って有り得ないだろう。
人間はミスをするものではあるが、兜悟朗においては本当にそれが全くない。だからこそ、彼が一人称を変えた理由がよく分からなかった。
(あの時だけ……?)
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