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第二十六話『ダブルデート』
遊園地に入ってから様々なアトラクションへ乗る事になった。
嶺歌は絶叫系が大の得意だ。何度乗っても飽きないそれは、嶺歌の高揚感を上げ続けてくれる。
形南も絶叫マシンには目がないようで、乗る前も乗った後も終始楽しそうだった。
兜悟朗は得意なのかは定かではないが、流石は執事というところで、表情を崩す事なく涼しげな顔をして乗り物に乗っていた。そして平尾は――――
(辛そうだな)
平尾の顔は生気を失っているかのように次第に青ざめていく。
形南が無理はしないでほしいと言っても平尾は大丈夫だと頑なに乗り物に乗ろうとするのだ。
言葉と表情が噛み合っていないその様子は客観的に見てもそろそろ限界ではないかと感じる事が出来ていた。
「ねえ平尾君、もうやめときなよ」
形南と兜悟朗が飲み物を買いに離脱している際に嶺歌はベンチで座り休憩する平尾にそう言葉をかける。
彼が形南の為に乗り物に付き合いたいという気持ちから無理をしている事は明白であった。
「で、でもさ……あれちゃん喜んでる…………」
平尾は今にも吐きそうな顔をして地面を見つめて顔を俯かせている。嶺歌はそんな彼にコンビニのビニール袋を差し出した。
「今にも吐きそうじゃん、ゲロっちゃった方がいいよ。辛いっしょ」
「あ、ありがと……」
平尾はそう言ってビニール袋を受け取る。しかし吐き出す事はしなかった。形南が戻って来た時の自分の立場を考えているのだろう。
「変な威勢は逆効果だと思うけど」
嶺歌がそうはっきり口にすると平尾は「そ、そうなの?」と不安げな表情を更に不安そうにさせてこちらを見上げた。
嶺歌はそうだよと肯定してから平尾に視線を向ける。
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