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「あれなの為って思ってるだろうけど、本人からしたら罪悪感で一杯になると思う。特にあれなみたいな女の子はね」
「あ……たしかに…………」
平尾は愕然とした様子でしかし嶺歌のその言葉に納得していた。
少し意地悪な事を言ってしまっただろうかと思ってしまう程に彼は落ち込み、その様子を見て嶺歌は何か掛ける言葉はないかと考え始める。
「まだ午前中だよ? いくらでも挽回できるじゃん。だから落ち込むのはなし。落ち込みたいならデート終わってからにしな」
嶺歌はそう言うと急いでこちらに駆けてくる形南と兜悟朗の姿を目にする。そうして平尾に最後に「頑張れ」と告げると彼から離れて形南達の方へ足を向けた。
「平尾様! ご気分はどうですの? 今お水とお薬をお持ちしましたの!」
形南は心底不安げな表情で平尾を見据え、彼の隣にちょこんと座り始める。
平尾は気分が悪いのか、それとも思っていた以上に近くに座ってきた形南に緊張しているのかよく分からない表情をしながら彼女の言葉に応答していた。
「嶺歌さん、平尾様を見て頂き有難うございます」
すると形南と平尾のやり取りを一歩離れたところで見ていた兜悟朗が同じ距離感で見ていた嶺歌にそう言葉を告げる。
嶺歌は兜悟朗のことを意識した途端に胸が騒ぎだし、緊張感が一気に押し寄せてきていた。
「お礼を言うのはあたしもです。あれなと一緒に必要なものを持ってきてもらって、ありがとうございます」
嶺歌はなるべく平静を装いながら彼に言葉を返していく。平尾にとやかく言える立場ではない。
嶺歌も嶺歌で意中の人物には顔が赤らんでしまい、まともに会話ができそうにないと身にしみて感じたからだ。
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