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そう言って形南の背中を軽く叩く。
すると形南は今にも泣き出しそうな顔をして嶺歌の名を呼ぶとハンカチを出して泣き出した。
嶺歌は形南の涙する姿を目にしたのは初めてであり、彼女が泣いた事実に驚く。
竜脳寺の件で威厳のある様子を見せ、誰に何を言われても弱味を見せなかったあの形南が、たった一人の好きな男の子の体調不良で涙を流している。
形南の表情は今まで見た事がない程に悲痛な面持ちをしており、嶺歌はそんな形南を前にして彼女がどれほど平尾を想っているのかを改めて認知していた。
「大丈夫。吐き出せば案外スッキリするだろうし」
そう言って彼女を宥める。形南は「そうですわよね」と言葉を返し、しかし未だに涙を流していた。
「平尾君が回復して戻ってきたら何するか決めておこうよ。あいつ、何が好きなの?」
哀しみ続ける彼女を見て、嶺歌は形南の気持ちを少しでも安らげようとそんな話題を出す。
すると形南は直ぐにそうですわねと小さく笑みを溢すと持っていたハンカチで涙をもう一度だけ拭い取り、悲しげな表情を一転させる。
「有難うございますの嶺歌。こうしてはいられませんね、平尾様がお好きだと申していた観覧車にお乗りしましょう!」
「うん、いいね! 乗ろう」
切り替えの早い形南はそう言って両手を可愛らしくグッと握り、ポーズを作り出すと気持ち的にも乗り越えられたのか逞しげな表情へと変化していた。これでもう大丈夫そうだ。
嶺歌はその事に安心しながら、兜悟朗と平尾の帰りを待った。
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