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兜悟朗達は数分してから戻ってきた。平尾は先程よりも遥かに顔色が良くなり、兜悟朗の介抱のおかげかすっきりとした表情をしていた。
「平尾様! もう大丈夫ですの?」
彼の姿を目にした形南は即座に平尾の元へ駆け寄ると周囲の目を気にせず彼の身を案じる。
平尾はそんな形南に視線を向けながらも小さく頷き「うん、ごめん。迷惑かけて」と言葉を返していた。
「そのような事はお気になさらず! 私の方こそ、貴方様をお辛くさせてしまい申し訳ありませんの」
「そ、そんなの全然……もう大丈夫だし」
そんなやり取りをする二人を静かに見守っていると兜悟朗が再び嶺歌の名を呼んで声を掛けてくる。
「お嬢様を落ち着かせて下さり、有難うございます」
「いえ、それは友達として当然ですから」
嶺歌は未だに慣れない心臓の高鳴りを感じながらも彼の好意的な言葉を無視したくはなかった。
しかし照れてしまう自分を見られる事は恥ずかしく、普段通りの対応ができていない。兜悟朗からしたら、顔を変に赤らめる不思議な人間に見えてしまっている事だろう。
「平尾君の介抱、ありがとうございます。兜悟朗さんはやっぱり何でもできるんですね」
嶺歌は赤らんだ顔のまま彼へのお礼を告げた。現に平尾の体調が良くなったのは紛れもなく兜悟朗が側でついてくれていたおかげだろう。
すると兜悟朗はそんな嶺歌の言葉に微笑みを返しながら「とんでも御座いません」と返答する。
兜悟朗とのやり取りに度々顔が赤らんでしまう嶺歌は彼のその返しで限界が来ていた。そろそろ移動して気分を落ち着けたいところだ。
そんな事を思いながら形南と平尾に目を向けると二人も移動の話をしていたのか、ちょうど嶺歌と視線が通い合った。
「嶺歌、そろそろ移動しましょう」
「うん、そうしよ」
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