第二十六話『ダブルデート』

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 なんと言っても彼への恋心を自覚したばかりであるのだ。  そんな相手と密室で二人きりと言うのは中々に中々である。  しかし形南(あれな)たち二人だけに楽しんでこいと言うのも変な話なので嶺歌(れか)は平静を装いながら観覧車に乗車する事を心に決めた。  兜悟朗(とうごろう)はいつものような柔らかな笑みをこちらに向け「お嬢様と平尾様が乗車されました。僕達も参りましょうか」と誘導してくれる。 (僕……)  嶺歌は彼が一人称を使い分けている事に嬉しい気持ちを感じていた。  彼にとって嶺歌がどのような存在なのかは分からない。だがそれでも少なくとも普段の一人称を崩してしまう程には心を開かれているという点は自惚れてもいいのかもしれない。 (絶対そんな対象には見られてないだろうけど)  兜悟朗がこちらをそのような目で見ることは現時点では皆無だろう。嶺歌は十一歳も年下の小娘だ。  それに以前彼は恋愛感情が分からないのだと話をしていた。  そんな兜悟朗が歳の離れた子どものような女を恋愛対象として見てくれる可能性はないに等しい。  嶺歌はそう自覚して、しかし自覚をしながらも兜悟朗への想いを自身の中で消したいとは思わなかった。  彼との関係を進展させたいとは思うが、それはまだ今の嶺歌の望む段階ではない。今はただ彼を好きだと、好きであると分かったこの感情を楽しみたい。 (兜悟朗さんが好き)  そう自分で理解出来たことが、とてつもなく嬉しかった。
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