第二十六話『ダブルデート』

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 思わず声が出た。どういう意味で捉えていいのか分からない。  だがそんな事は二の次であり、確かに今嶺歌(れか)の事を大きな存在であると口にしてくれた兜悟朗(とうごろう)に嶺歌は再び心臓の音がうるさく鳴り始める。どうしよう、堪らなく嬉しい。 「あの日、貴女に表明した日から僕自身も貴女様の存在の大きさを再認識したのです。ですからもう少しだけ砕けた状態で、貴女と関わりたく思いました」  兜悟朗はそう言って優しく嶺歌を見つめる。彼の視線が輝きを放つ夕日に相まってとてつもなく眩しく見える。  そして兜悟朗は柔らかな笑みを一度止め、口元を引き締めると今度はこんな言葉を口にした。 「ですがこの件に関しましてはお嬢様にお告げしておりません。お嬢様の前ではそのような態度をお見せする事を僕自身が禁じております」  それは、高円寺院(こうえんじのいん)家に仕えた執事としての立場を考えての言葉なのだと、説明がなくとも今の彼の台詞で理解する事が出来た。  嶺歌は彼の意見を肯定するように小さく頷いてみせると兜悟朗は再び微笑みかけてから、自身の胸元に手を当て、こちらを見返した。 「ですので嶺歌さんの前でのみ、僕は僕で接したいと思っております。お許しいただけますか?」
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