第二十六話『ダブルデート』

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 彼のその控えめな問い掛けに嶺歌(れか)の心はあっという間に奪われた。  そのような許可を取る彼に今のこの嶺歌が容認しない選択肢があるはずもなく、嶺歌は真っ赤に染まった顔のまま勿論ですと声を返す。  兜悟朗(とうごろう)への恋を自覚してから何だか普通に接する事ができない。  嶺歌は自身の心を隠すように慌てて「う、嬉しいですけどなんだか照れますね。兜悟朗さんは大丈夫なんですか」と言葉にした。  彼の表情はいつも通り、柔らかで誰に対しても向けられる表情そのものだからだ。しかしそこで嶺歌は己の言葉にすぐ心中で否定の声をあげていた。 (いやいやいや、兜悟朗さんが照れる訳ないじゃん、何言ってんのあたし)  混乱する中で嶺歌がそんな事に考えを巡らせていると兜悟朗は「そうですね」と言葉を口に出してから、しかしこんな言葉を繰り出してくる。 「僕も恥じらいというものはあります。ですがそれ以上に、嶺歌さんと以前より親密になれた事実を嬉しく思います」 「…………」  もう恥ずかしくてどうにも出来ない自分がいた。赤面する顔をどうにかしようと思っていた心さえも、簡単に諦めてしまう。  それほどまでに嶺歌の顔は最高潮に赤く染まり上がっており、それを隠しきれないと気が付いたのだ。  嶺歌は真っ赤っかになった顔のまま顔を俯かせると兜悟朗に小さく言葉を放つ。 「あの、ありがとうございます」 「とんでも御座いません。こちらこそ、有難う御座います」  兜悟朗の顔は嶺歌と比較して全く照れている様子などはない。  彼の言葉の意味も単なる親愛的なもので他意などないのであろう事も分かっている。  だがそれでも、この一分一秒がとてつもなく嶺歌の心を満たしており、こうして二人だけでいられる僅かな時間を永遠と過ごしていたいと、そう感じてしまっている自分がいた。
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