第二十七話『報告と苗字』

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 形南(あれな)と約束通りの時間に近場の喫茶店で会うと、形南は珍しく兜悟朗(とうごろう)ではない人物をお付きとして従えていた。  執事ではなくメイドだった。以前形南の自宅に訪れた際に遠目から一度目にした事があるような気がする。 「本日は兜悟朗がいない方が宜しいかと思いまして、人を替えましたの。メイドのエリンナですわ」 「和泉(いずみ)様ご挨拶申し上げます。形南お嬢様にお仕えしております里山(さとやま)エリンナと申します。以後お見知り置きを」  そう言って長いスカートをひらりと上品に持ち上げてお辞儀をする。  流石は高円寺院家のメイドだという感想しか出てこない程に洗練されたその所作は、彼女がプロのメイドであるという事を瞬時に理解させていた。  嶺歌(れか)は彼女の丁寧な挨拶に失礼のないようしっかりと目を合わせて挨拶を返す。 「和泉嶺歌です。こちらこそよろしくお願いします」 「ではエリンナ、貴女は暫く席を外してちょうだいな」  形南はエリンナに視線を送ってそう言うと、彼女は承知いたしましたと言葉を告げ、その場を素早く立ち去る。関係者に話を聞かれないよう気を利かせてくれたのだろう。  嶺歌は形南の気遣いを感じながら彼女にお礼を告げる。  形南は終始ニコニコと微笑みながら、嶺歌のお礼に言葉を返すと待ちきれない様子で「それではお聞かせくださいまし!」と身を乗り出して話の詳細を尋ねてきた。  形南の目はいつも以上にキラキラと輝きを放ち、嶺歌の初恋話が早く聞きたくてたまらないといった様子だ。  嶺歌は照れ臭い思いを抱きながらもしかしそれ以上に他でもない形南に聞いてほしいという感情が何倍も大きかった。  形南に促されるがままに最近起こった自身の心境の変化を彼女に伝え始める。
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