第三話『運命の』

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「宜しければ御校までお送り致しますわ」  対面して早々に彼女は二度目の挨拶をするとそう言い、昨日の様にリムジンに乗せられた。  朝の日課である魔法少女の活動は出来なかったが、毎日の様にこなしていたので今日くらいは問題ないだろう。  そう思いながら嶺歌(れか)形南(あれな)の方から話を切り出されるのを待つ。  依頼の内容は理解しているが、具体的な内容にはまだ触れられていない。すると形南は予想通りにその内容について口を開き始めた。 「昨日は説明ばかりで肝心な事を申し遅れていましたの。こちら、(わたくし)の運命の方ですの」  そう言って形南が取り出してきたのは一枚の写真だった。そこには一人の男子生徒が写っている。そしてその男には見覚えがあった。 「隣のクラスでたまに見かける人ですね」  そう口に出すと形南は「まあ!」と嬉しそうに言葉を発しこちらを見上げる。彼女の目は爛々(らんらん)と輝き、目には見えぬ(まばゆ)い光を感じられた。 「それは嬉しいお話ですわ! あの方の事、詳しく教えて下さらないかしら?」  興奮した様子で形南に手を握られ、嶺歌は困惑した。  見かけるとは言っても彼の事は何も知らないからだ。話した事は勿論なく、名前はおろか一人称すらも知らない。雰囲気的には僕だろうか。  そんな推測くらいしか口に出せる情報はなかった。  それを申し訳なさそうに彼女に告げると形南は「そうですわよね」と少し落ち込んだ様子で俯く。  その様子に益々申し訳なさが芽生えてると「形南お嬢様」と執事の声が聞こえてきた。 「気を落とされる必要は御座いません。これからはあのお方にお会いできるのですから」 「それもそうだわ! ふふ、楽しみになってきましたの」  兜悟朗(とうごろう)の言葉で形南は直ぐに笑顔を取り戻すとそのまま楽しそうに鼻歌を歌い出す。  どうやら彼女は切り替えが早いようで、先ほどの悲しい表情の面影はどこにもなく、心から嬉しそうにしている。  嶺歌はそんな彼女の様子に純粋に感心していた。
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