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想い人のフルネームを知らない事態に驚愕した。一刻も早く知りたい気持ちが急いてくるが、しかし順序というものがある。
嶺歌の顔色が変わった様子に形南は不思議そうに顔を傾けると「どうされましたの?」と問い掛けてくる。
嶺歌はすぐに彼の苗字を知らない事を彼女に説明した。
「あら、それなら私がお教えいたしますの。兜悟朗の苗字は……」
「あ、ちょっとストップ!!!」
善意で口にしてくれているであろう形南に嶺歌は勢いよく手を前に出し制止させた。形南には申し訳ないが、嶺歌はこのような形で知りたくはなかった。
「ごめんあれな、あたし、兜悟朗さん本人から聞きたい」
そう言って形南に両手を合わせて謝罪する。
形南は驚いた様子で口を開けてこちらを見ていたが、嶺歌の言っている事を理解してくれたのか瞬時に笑顔に戻ると嬉しそうに同意の声を発してきた。
「そのお気持ち、素敵ですの! 分かりましたわ! この後兜悟朗に会ってお行きなさいな。私がセッティング致しましてよ!!」
「えっいいの?」
「当然ですの! 他でもない嶺歌の事ですのよ!」
形南は即座にそう答えると早速行こうと素早く席を立つ。
嶺歌は思いがけぬ彼女の行動力に流されるがまま会計を済ませ喫茶店を後にした。
喫茶店を出ると直ぐにメイドのエリンナがやってきて三人でリムジンへと乗車する。そして無駄な時間がなかったと言うしかない程あっという間に高円寺院家の自宅まで到着するのであった。
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